このエントリーを含むブックマーク 2006年12月08日

ソフトウェア産業の究極の振興策

IPA (情報処理推進機構) のかたとお話しした。 優秀なソフトウェア技術者の成果をビジネスにつなげるための支援をするには、 どうしたらいいかヒアリングしたいとのこと。

ああ、この人もソフトウェアをモノと誤解している人なんだ。

ソフトウェア以外の分野、 たとえばバイオや新素材などでは 優れた発明・発見がビジネスに直結する。 真に有効なモノ (例えば新薬や新素材) の真に有効な製造方法が発明されれば、 あとは製造工場を建設するのに必要なカネがあればよい。 だから、資金援助を行なうことが即、その産業の振興につながる。

しかしながらソフトウェアはモノではない。 ソフトウェアには特殊な製造方法などなにもない。 あるソフトウェアを作るのに特殊な「知的財産」が必要、 などということはないのである。

確かに、ソフトウェアの分野にも一応「発明」と称するのものがあるが、 その「発明」が公開されなければ製造できないソフトウェアが果たしてあるだろうか? 「ソフトウェア特許」を認めるべきか否かについては様々な議論があるが、 ソフトウェアを他の分野と同列に扱うことはできない、 ということだけは確かであろう。

では、ソフトウェア産業の振興には何が必要なのか? なぜ日本のソフトウェア業界には (例えば Google のような) 破壊的なイノベーションが生まれないのか?

簡単である、ソフトウェアを作る優秀な技術者が足らないからである。 だから振興策も簡単で、 技術者をビジネスの現場に引き合わせればよい

と言ったら、IPA でも 未踏ソフトウェア創造事業で発掘した人材を、 ソフトウェアの販売会社と引き合わせている、 という答が返ってきた。

そんなことを言っているのではない!

未踏事業で開発したソフトウェアを販売会社に紹介すれば、 確かに興味を持つ会社は出てくるだろう。 実際に販売してくれるところも出てくるかも知れない。 でもそんなことをして高々数千本ソフトウェアを売ったところで何になる? せいぜい (すごくうまくいったとしても) 数憶円の売上にしかならないだろうし、 数千本といえど売れば開発者はサポートに忙殺されてしまう。 せっかく発掘した貴重な人材の使い道としては、 あまりにモッタイナイ使い方ではないか。

優秀な技術者をソフトウェア販売会社に引き合わせたって意味はない。
優秀な技術者を「ビジネスの現場」に引き合わせなければならない。
つまり、優秀な技術者がその能力を存分に発揮し、 その能力に見合う報酬を喜んで支払う「事業家」に引き合わせなければならない。

日本のソフトウェア産業がアメリカに負けっぱなしなのは、 優秀な技術者が日本にいないからだろうか?

否!!

優秀な技術者と、優秀な事業家が、出会っていないだけである。 日本にも、勢いのある IT ベンチャーは数多い。 ところがそうしたベンチャーに入社しようと思う優秀な技術者がどれだけいるのか? ほとんど全ての IT ベンチャーは優秀な技術者を渇望している。 その一方で、大企業の研究所には優秀な技術者がゴロゴロしている。 私は日立製作所の研究所に 8年間勤めたので痛感しているのだが、 私よりよっぽど優秀な人が、特に活躍するわけでもなくゴロゴロしている。 つまり凡人でもできるような仕事をして、 凡人と同レベルの給料をもらって満足しているのである。

もちろんお金が全てではないし、 優秀な人はすべからくその能力をフルに発揮して活躍しなければならない、 というものでもない。 自らの能力を披露することなく静かに暮すのも一つの生き方であろう。

しかし、優秀な技術者の大半が、大企業の奥底で眠っているのだとしたら...?
そして日本のソフトウェア産業を振興させたいと思うのなら...?
それなら有効な振興策は一つしかない。 唯一にして最も効果的な究極の振興策、それは...

大企業の一つをつぶして、死蔵していた優秀な人材を放出させることである。



hiroaki_sengoku at 13:18 │Comments(6)TrackBack(7)技術と経営 

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1. なんか自分にはできそうな気がしてきた。  [ 起業屋Blog ]   2006年12月09日 01:58
(via 仙石浩明の日記: ソフトウェア産業の究極の振興策) 優秀な技術者をソフトウェア販売会社に引き合わせたって意味はない。 優秀な技術者を「ビジネスの現場」に引き合わせなければならない。 つまり、優秀な技術者がその能力を存分に発揮し、 その能力に見合う報酬を...
2. 技術者と経営者  [ パンデイロ惑星 (PukiWiki/TrackBack 0.3) ]   2006年12月09日 11:57
技術者と経営者/サイバーエージェント 仙石浩明の日記: ソフトウェア産業の究極の振興策 "日本のソフトウェア産業がアメリカに負けっぱなしなのは、 優秀な技術者が日本にいないからだろうか? 否!! 優秀な技術者と、優秀な事業家が、出会っていないだけである。...
3. ベンチャーについてふと  [ 眠る開発屋blog ]   2006年12月09日 14:23
ソフトウェア産業の究極の振興策 優秀な技術者をソフトウェア販売会社に引き合わせたって意味はない。 優秀な技術者を「ビジネスの現場」に引き合わせなければならない。 つまり、優秀な技術者がその能力を存分に発揮し、その能力に見合う報酬を喜んで支払う「事業家」に...
4. 負の産業政策  [ 池田信夫 blog ]   2006年12月11日 22:09
日の丸検索エンジンを批判すると、「対案を出せ」といわれることがある。こういうとき「役所は何もしないのが一番いいんだ」という答もありうるが、私はそうは思わない。いま発売されている『諸君!』にも書いたことだが、日本経済の問題は、高度成長期にうまくいった製造業...
5. 鵜は鵜飼いになれるか  [ clausemitzの日記 ]   2006年12月12日 00:05
こういうとき、私のプログラミングの師匠なら、どう答えるだろうな。 おーい、師匠。あんた好みの話題が出てるよー(笑)。 自称:腕は一流、人気は二流、収入は三流の師匠(爆笑)。 [[ソフトウェア産業の究極の振興策>http://blog.gcd.org/archives/50816826.html]...
6. ITベンチャーは皆優秀な技術者を欲している…?  [ 国民宿舎はらぺこ 大浴場 ]   2006年12月12日 01:45
釣堀と 知って突っ込む 恥知らず>ヲレ ソフトウェア産業の究極の振興策 (仙石浩明の日記 さま) 日本のソフトウェア産業を振興させたいなら大企業を一つ潰せ (スラッシュドット
7. 才能を持って生まれた人間は、才能を活用する義務がある  [ アキバ系!文京区本郷四畳半社長 ]   2006年12月12日 11:20
IPAがらみの人間としては大変興味深い、仙石さんのソフトウェア産業の究極の振興策

この記事へのコメント

1. Posted by そして    2006年12月08日 17:28
優秀な人材は日本でどう立ち回るのが楽か知っている.
まずは生活.それが成り立ってからの話.
2. Posted by 仙石浩明    2006年12月09日 06:57
まあ、その通りかもしれませんね。
自分の能力をどう使おうがその人の自由ですし、楽な道を歩むのもまた人生でしょう。
ただ、「まずは生活」というのはあまりにミミッチイ目標で、あまりにモッタイナイというか... 能力ある人にとって一番貴重なのは「時間」だと思います。「それが成り立ってから」なんて回り道しているうちにピークを過ぎてしまいそう。
3. Posted by 通りすがり    2006年12月09日 13:32
残念ながら、
「優秀な人が能力を発揮したらお金が儲かる」
というようなナイーブな世界ではないからではないでしょうか。

銀行員や公務員が高給を取る世界です。

ベンチャーに飛び込んで、技術的に高い能力を発揮して素晴らしいソフトを開発して、それでも儲からなくて、5年後くらいにWindowsの標準機能として実装されている、そんな世界。

もし世界を変えるなら、強力なリーダーが必要なのでしょうね。
4. Posted by kobo    2006年12月09日 20:07
初めまして。ITベンチャーで営業を担当しております。
畑違いと思いながらも勉強だと思い、せっせっと読んでましたが、正直これまでのentryは難しくてついていけないものも多かった。
ところが、今回のそれはハタとヒザを打ちましたね。
特に最後の殺し文句は感動すら覚えました。(以前F系にいたのでここの部分、非常に納得)
長期スパンで物考えると、確かに大企業から強制的に人材が放出される策を練った方が国のためだと思う。
ましてや国が音頭を取るIT振興施策などは米問題と同じ末路でしょうね。
5. Posted by 名無し    2006年12月11日 21:32
「まずは生活」が成り立たないほど酷い現状を何とかする方が先だと思いますが。
6. Posted by    2006年12月13日 05:12
今回の未踏ソフトウェアに応募した者です。
落選しました(内容的には今も自信があります)が、IPAがその様な意識だったということを知り、安堵と寂しさを感じています。

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